「、昼飯食おうぜぃ」
お昼休み、いつもの様にさくらと二人で机を向かい合わせて座りお弁当を広げると、約束通り丸井が現れた。(約束とは言っても丸井が一方的にしただけなんだけど)隣の席の子の椅子を掴んで私の机の横に置き、私の机の上に持っていたお弁当を広げた丸井は、ちらっとさくらに視線を送り「チッ」と舌打ちした。
「なんだよ、一条も一緒かよ」
「何言ってんの、先約は私なんだから入れてもらえるだけありがたいと思いなさいよ」
「俺はと二人で食う予定だったんだ」
なんか・・・今更だけど、丸井ってジャイアン?
「楽しそうじゃな。俺も仲間に入れてくれん」
げっ、仁王・・・
「なんだよ仁王、仲間に入りたいんだったら一条貸してやるから二人で食えば?俺はと二人だけのがいーしな」
「そんな冷たいこと言わんで、な」
そう言って仁王は丸井の向かいに座り、コンビニの袋を机の上に置いた。
なんか狭い・・・
「ちょっと丸井、私を貸すって何?邪魔なのは丸井の方でしょ?折角のこと協力してあげようと思ったけどやーめた」
「協力?そんなの必要ねーだろぃ。俺は何事も自分の実力で勝負だっての」
暫らくさくらと丸井のやりとりを見てたけど、もう放っておこう。
「・・・いただきます」
私は小さくため息を吐いてお弁当に手を付けた。
「はいつもそんな少ない弁当なんか?」
と仁王が私のお弁当を覗き込んだ。
「うん。仁王こそパンばっかりで部活大丈夫なの?」
今度は私が仁王の前にあるコンビニの袋を覗き込んだ。コロッケパンと卵サンド、仁王の手には食べかけの焼きそばパン。「部活の前に腹拵えするから平気じゃ」と言う仁王の前に私は自分のお弁当を突き出した。
「おかずだけでも食べる?野菜が足りてないんじゃない?」
苦笑気味に「いらん、て」と言う仁王の前から、差し出したお弁当を手元に戻そうとすると、ぐっと腕を引っ張られた。
「なにしてんだよ」
振り向くと、丸井は眉間に皺を寄せて私を睨んでいた。
「何って?」
「なんで仁王にの弁当分けようとしてんのかって聞いてんの」
ちょっと恐いんだけど・・・
「仁王、パンだけだったから」
「俺にはねーの?」
え、丸井は私の二倍位のお弁当にでっかいメロンパン付きじゃん。私が丸井のお弁当に視線を移したことに気付いたらしく、丸井は「はぁ」とため息を吐いた。
「言っとくけど、量が足りないとかじゃねーからな。俺、が好きだって言ったよな。好きな女が他の男に弁当分けてやるなんていい気分なわけねーだろ」
「でも丸井は誰からでも差し入れ貰うよね」
「はぁ?」
意味がわからないって顔をして、丸井は掴んでいた私の腕を放した。
「丸井の好きな女の子のタイプ、物をくれる人(特に食べ物だったっけ?)なんでしょ?」
「あー?(そーいや校内新聞に載せるとか言ってたアンケートにそんなこと書いたような気が)」
「調理実習のお菓子とかよく貰ってるじゃん。・・・私、一度も丸井に物をあげた覚えないけど?」
「え、何?嫉妬?つーか俺に手作りお菓子を食べさせたいってこと?」
なんでそーとるかな(呆)・・・んなわけにないでしょーが!
「違う。私が丸井に好かれる理由がないって言いたいの」
「別にタイプじゃなくても人を好きんなることだってあるだろぃ。俺はタイプとか関係なくが好きだって言ってんの」
なんかこの人ダメだ、話がかみ合わない。
「わかった。丸井が私のこと好いていてくれるってこと、ちゃんと理解しました」
「だから仁王にも他の人にもお弁当は分けません」
「それから、丸井の気持ちはありがたいと思うけど、やっぱり私、丸井のことよく知らないから付き合うことはできない」
内心ドキドキしながらも、私は丸井に言いたいことを伝え、彼の反応を待った。ちょっとは落ち込んだ表情を見せるかもと思いきや、丸井は何のことはないといった様子で、尚もお弁当を食べながら口を開いた。
「俺のこと知らないから付き合えねーってんなら俺のこと知るために付き合えばいーんじゃねーの」
「俺はのこと諦めるつもりはねーし、友達になりてーわけでもねーし」
「・・・」
「俺のことよく知らねーからって断ったってことは、好きなヤツもいねーってことだろぃ」
「だったらお互いのことよく知るためにも、今日から俺はの彼氏、決定な」
はぁ?何言ってんの!?
「ちょっと、何勝手なこと言ってんの!!」
慌てて丸井の言葉を撤回させようとすると、隣から押し殺すような笑い声が聞こえてきた。
「く、くっくっく・・・」
何がおかしいのよ仁王!!
「諦めなよ、私たちの言った通りじゃん」
さくらも私を助けてくれる様子ではなく、丸井を後押ししてるし・・・
「誰彼構わず手作りお菓子とか受け取っちゃう彼氏なんて絶対に嫌だ」とさくらを睨み付けると、ついに仁王はお腹を抱えて笑い出した。
「ぶっ!あっはっはっは・・・」
何がそんなにおかしいの?
「なんかお前、俺のこと誤解してるだろぃ・・・」
不貞腐れた様に口を尖らせ丸井が呟いた。
「何が?」
「確かに校内新聞に俺のタイプが載ってから差し入れ持ってくる女が増えたけど、俺は全部貰ってるわけじゃねーからな!もともと友達のヤツとかのは貰うけど、知らねーヤツからは受け取ってねーよ。勝手に置いてったのもとかも食ってねーし」
あ、そーなんだ。
ただの食いしん坊ってわけではなかったのね。
「やっぱり俺のことちゃんと知って貰うためにも俺たち付き合おうぜぃ」
「・・・でもそれで私が丸井を好きになるかはわからないじゃん」
「わかった。とりあえず1ヶ月付き合ってみて、それでも俺のこと好きになれなかったら、そんときは付き合うってのは諦めてやるよ。まー俺が一方的に付きまとうのは止めらんねーけどな」
それ、ストーカーじゃん。
「付き合うって具体的にどーすればいいの?言っておくけど私放課後はお姉ちゃんのお店に手伝いに行ったりするから、毎日テニス部見に来いとか、一緒に帰るとかムリだからね」
「まぁ具体的になんて俺もよくわかんねーけど、俺が会いに来たら普通に受け入れてくれるとか、廊下で会った時は声かけてくれるとか、時間がある時は部活見にきてくれるとか、休みの日に一緒に遊びに行くとか。あー、あと差し入れとか持ってきてくれるのは大歓迎だからな」
「・・・それって友達でもできるんじゃないの?」
私はなんてゆーか、こうもっとねぇ・・・
「俺はなー、お前と友達のまま終わるのはイヤなんだよ!」
「けどお前の気持ちムシして、なんてこと考えてもねーからな」
「それ以上のことしたいって思うけど、それは花音もちゃんと俺のこと好きって思ってくれなきゃ意味ねーだろぃ」
なんだ、結構普通の人(?)じゃん。
「それならまぁいいかな?とりあえず試しに1ヶ月よろしく。でもそれ以上は絶対しないからね!!」
「それ以上ってなんだよ」と意地悪な笑みを浮かべる丸井。
「だから、手を繋いで歩くとか(キスするとかその先に進むとか)とにかく!私の気持ちムシして突っ走るとかだよ。それにファンの子から呼び出されたりも勘弁だから。そんなことあったら1ヶ月と言わず即別れるからね」
「そんなことさせねーって。んじゃそーゆーことで、今から俺のことは名前で呼べ」
命令ですか?
「話はまとまったかの?早く食べんと昼休みが終わるぜよ」
私と丸井のやりとりを黙って見ていた仁王が牛乳パックのストローをくわえながら口を挟んできた。
「なんだよ仁王、邪魔すんなよ」
「てば、とりあえず付き合うとか絶対イヤとか言ってたのに。丸井の押しに負けた?」
楽しそうに笑うさくらに指摘され、私は「うっ・・・」と言葉を詰まらせた。
「そんなん問題ねーよ。とりあえずって言っても最終的にはマジで付き合うことんなるんだからよ」
その自信はどこから出てくるんだろ・・・
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