放課後、部活を終え、焼肉を食べに行こうと校門に集まった。 みんなより少し遅れて来た仁王の横には、なぜか丸井の幼馴染が立っていた。 「なんでお前までいるんだよ」という丸井の質問に答えたのは仁王だった。

「ん?弁当のお礼に俺が奢っちゃるって誘ったんじゃ。それにも女一人じゃ来づらいと思っての」
「ふーん。ま、別にいいけど」

歩き出した丸井の後に付いて行くと、丸井の幼馴染が私を追い越して丸井の腕をとった。

「ブン太、お弁当仁王にあげたんだって?カノジョが作ってきてくれたんだ」

そう言って彼女は、クルっと振り返り私にニコリと笑いかけた。

「おう。明日も作って貰うから、おばちゃんに俺の分はいらねーって言っといて」

と彼女の手を腕をから引き離す丸井。 なんか、いくら幼馴染でも、彼女がブン太って呼ぶのも、簡単に丸井に触れるのも、凄く、すっごーく、イヤなんだけど。 なんとなく二人の間に入って行くことができなくて、お店に着くまでの道、二人の会話に耳を傾けながら一人で歩くことになった。

「いつもの食べ放題でいいっすよね?さん、何飲みますか?」

隣に座りメニューを開く切原に「烏龍茶」と一言告げると、切原は他のメンバーの注文を聞き店員に向かって手を挙げた。
・・・なんかこの並び、ちょっと違くない?
なぜか私の隣に切原が座り、その隣には桑原。 そして私の向かいに丸井が座り、その隣に幼馴染と仁王。
こういう時って普通、私は丸井の隣に座ったりするんじゃないの?
運ばれてきたお皿や飲み物を配り隣に座る丸井の世話をやく幼馴染は、傍から見たらまるで丸井のカノジョのようだ。

さん肉焼くっすよ。ボーっとしてたら全部ブン太先輩に食われちゃいますよ」

私の前にある網にお肉を乗せる切原からお肉の乗ったお皿を取り上げる。

「いーよ、私がやる」

なんだか悔しくて、幼馴染が丸井にしてあげているように私も切原にお肉を焼いてあげた。

「ブン太、これもう食べられるんじゃない?」

焼けたお肉を次々と丸井の取り皿に乗せる幼馴染に対抗して、同じように切原の取り皿にお肉を乗せる私。

さんも食べて下さい。俺、自分で焼くっすから」

と苦笑する切原の言葉にふと我に返った。
何やってんの私?バカバカしい・・・
楽しみにしていたはずの焼肉は思っていた程・・・否、全く楽しめるモノではなかった。
「あーうまかった」
「苦しいっす」

会計を済ませて外に出たトコロで、丸井に「ご馳走様」とお礼を言う。

「おう、明日の弁当忘れるなよ」
「うん」

と返事をして、私は幼馴染に目を向けた。 彼女が仁王と話をしている隙に帰ってしまおうか。

「バスの時間まであと三十分位あるな、どこかで時間潰すか?」

桑原が時計を見た後、切原に視線を移した。

「そうっすね。さんは電車っすか?」
「ううん、徒歩。歩いて帰れる距離なの」
「じゃー、ブン太先輩に送ってもらうんすよね」

切原の言葉を聞いて、丸井に視線を向けた。 それと同時に少し離れたトコロで仁王と話をしていた幼馴染が丸井を呼んだ。

「ブン太ー、帰ろー。もうすぐ電車来ちゃうよ」
「先帰れよ、送ってくるから」
「電車じゃないの?」

近づいてきて私に質問を投げ掛ける幼馴染。

「ここからすぐだから歩き」
「じゃーブン太、一緒にカノジョ送り届けてから帰ろう。どうせ隣同士の家に帰るんだから一人で帰るよりブン太と一緒の方が私も楽しいし」

そう言ってまた丸井の腕に自分のそれを絡ませる幼馴染。
なんかもう、ホント、限界なんだけど・・・

「いーよ、丸井はその子と帰りなよ!私は赤也に送って貰う!」

隣に立っていた切原の腕にしがみつき、丸井とその幼馴染を睨んでやった。

「は?何言ってんだよ。つーか赤也から離れろ!」

丸井は慌てて幼馴染の手を払い除け、赤也の腕から私を離そうとした。

「赤也、てめー何にくっついてんだよ!しかも名前で呼ばれやがって!の隣に立つな!」

切原から引き離した私の手を両手で掴みながら切原に離れろと怒鳴る丸井。

「俺のせいっすか?!俺関係ねーっす・・・」
「もー、ヤダ!離してよ!丸井なんか大嫌い!!」
「はぁ!?」
「丸井だって幼馴染の子に名前で呼ばれてるじゃん!仲良さそうに腕組んだり、楽しそうに二人の世界に入っちゃったり!幼馴染だからってブン太って呼ばせちゃヤダ!簡単に触れさせないでよ!私以外の子からモノ貰わないって言ったのになんでお弁当受け取ってんの!」

周りが見えなくなった私が一気に丸井をまくしたてて一呼吸すると、丸井は掴んでいた私の手首を離し小さくため息を吐いた。 はぁという吐息が聞こえ、急に自分のしたことがとてつもなく恥ずかしくなって、丸井に呆れられたかもと思ったとたん涙が溢れ出た。

「ううっ・・・」
「泣くなよ」

と私の頭の上にポンと手を乗せた丸井は、次の瞬間私を抱き締めた。

「こいつは俺が送ってくから、丸井はを送ってやればよか」

仁王の声が聞こえてきて、そういえばここには切原たちもいたんだと慌てて丸井の腕の中から逃れようともがいた。

「じゃーな」
「お先っす」

仁王たちの足音に続いて桑原と切原の足音もだんだん遠ざかって行き、その場に丸井と二人きりで残された。


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