「俺たちも帰ろうぜぃ」
丸井は私の体を少しだけ離し、着ているシャツで私の顔をごしごし擦ると私の手をとり歩き出した。
私は俯いたまま丸井に手を引かれて歩く。
もの凄く気まずいんだけど・・・
頬を伝った涙が渇いたころ、丸井がポツリと呟いた。
「ガム食う?」
首を横に振ると「食っとけ」とポケットから取り出した粒タイプのミントガムを二つ、私の手に握らせた。
「・・・ありがとう」
と包みを開けて一粒口に入れると、丸井も同じガムを二粒口に入れた。
フーセンガム専門じゃなかったの?
「さっき焼肉屋で貰ったやつ。赤也たちにやるの忘れてた」
「・・・」
「いつもは粒タイプのガムは食わねんだけど今日は花音と一緒だしな。焼肉の後のエチケットらしいし」
「・・・」
さっきと同様、俯いたままの私に、一人言のように呟く丸井。
「・・・つーかさ、なんか誤解してるよな、」
「え?」
と顔を上げると、苦笑いした丸井が「あいつ、俺の幼馴染のヤツな、仁王と付き合ってるから」と言った。
は?・・・・・はぁ?!
「え?!だって、なんで?わけわかんないんだけど」
一人でパニクる私を見て「まー、あいつらのことはどーでもいいとして、」と苦笑いする丸井。
「さっきが言ったことって、そのままの意味で受け取っていーんだよな」
「・・・」
さっきのって、もちろん私が取り乱して口にした言葉のことだよね・・・
さくらや仁王がよくするニヤリという笑顔を浮かべて私の顔を覗き込む丸井。
「とりあえずさー、他の女に名前で呼ばれちゃヤダってんならが俺を名前で呼ぶことのが先だろぃ」
「・・・(ごもっともです)」
「あとなんだっけ?あー、俺に触るのがダメだったか。腕絡められたのが気に入らねーってことだよな?わかった、それはもう以外にはさせねー。そん代わり俺はもうに遠慮しねーからな。人が居てもこーやって手を繋ぐし、さっきみてーに抱き締めたりもするし、文句は言わせねーからな」
「・・・(それはちょっと)」
「あと、弁当受け取ったのは悪かったよ。以外からは差し入れとか受け取らねーって言ったの俺なのにな。まー、あれは差し入れとは違う気もするけど」
「・・・(その通りです)」
どうコメントしていいのかわからなくて無言のまま丸井の言葉を聞いているうちに、いつの間にか家の前についていた。
「・・・送ってくれてありがとう」
と手を離そうとすると、丸井は繋いだ手に力を込めた。
「、俺に言うことあるだろぃ。先ずはさっきの“大嫌い”ってヤツ、撤回しろよな」
「うん・・・えっと、大嫌いじゃない」
「・・・で?」
「え?」
「それから?俺に言わなきゃなんねーこと、まだあるだろぃ」
それは何?ここで丸井への気持ちを打ち明けろと言うことですか?
「言うまで離さないからな」
手を握られたまま真顔で見つめられ、私は丸井から目を反らせなくなった。
「・・・好き?」
「なんで疑問系なんだよ。ダメ、やり直し」
「・・・どうしても今言わなきゃダメなの?」
私の質問に丸井は盛大にため息を吐いた。
「今言わないでいつ言うつもりなんだよ。俺はが好き。はどうなんだよ」
「私も・・・ブン太が好き」
“チュッ”好きと言ったと同時にブン太の顔が近づいてきて、お互いの唇が一瞬だけ重なった。
「まだ1ヶ月経ってねーけど、とりあえず1ヶ月って約束は解消でいいだろぃ」
「うん。でも突然キスするのとかやめてよ!しかもこんなトコロで!人に見られたらどうすんのよ!」
「俺は構わねーけど?」
そう言って笑うブン太を見たら、なんだかもう何も言えなくなってしまった。
理不尽な扱い受けても許してしまってる桑原の気持ちがわかるような気がするよ・・・
*
「そういえば、昨日の焼肉は楽しかった?」
お昼休み、いつもの様に四人でお弁当を広げているとさくらが口を開いた。
返事に困って微妙な表情をしていると、仁王が私を見てニヤリと笑った。
「俺はもの凄く楽しかったっちゃ」
「そりゃあ仁王はカノジョと一緒だったからね」
嫌味のつもりで仁王に微笑みかける。
「うそ、仁王ってカノジョいたの?!」
と驚くさくらをスルーして、悪魔のような笑みを浮かべた仁王は、恐ろしいことを口にした。
「一緒に行かれんかった一条に土産代わりの写メ見せてやるぜよ」
とポケットから取り出した携帯を素早く操作して、さくらにそれを渡す仁王。
なんかとてもイヤな予感・・・
「え?!何これ!どういうことなの!」
仁王の携帯を見て声を荒げるさくら。
「なんだよ、俺にも見せろぃ」
さくらから仁王の携帯を取り上げるブン太。
「お、うまく撮れてんじゃん。これ、俺にもくれよ」
カチカチと操作して、仁王に携帯を返そうとするブン太から無理矢理それを取り上げた。
取り上げた携帯の画面にはブン太の胸に私が泣き付いている姿が!!
「ギャー!なんでこんなの撮ってんの!今すぐ消してよ!てゆーか消すから!」
画像を削除しようとすると、仁王の手が伸びてきて携帯を奪われた。
「無駄ぜよ、俺だけじゃなくて別の角度から赤也も撮ってたからな」
「バカ也も?!」
ガタンと音をさせ椅子から立ち上がると、ブン太に手首を掴まれた。
「別にいーだろぃ。赤也のは後で俺が削除しとくから(俺の携帯に移してからだけどな)」
「で?いったい何がどうなってと丸井が抱き合うことになったのよ」
というさくらの疑問に、昨日の私の醜態を事細かに仁王が説明してくれた。
もちろん私は仁王の口から昨日のことを明かされるのをなんとか阻止しようと試みたけど、悉くブン太に邪魔されてしまった。
「そーんな楽しいこと私のいないトコロで起こるなんて、私ってばなんてタイミング悪いのよー!!」
悔しそうに拳を握るさくらの叫び声が教室中に響き渡った。
|
|