お昼休み、鞄を手に急いで教室を飛び出した。
「、どこ行くの!?」
「すぐ戻るから待ってて」
と丸井のクラスに向かう。
誰にも見られないようにお弁当を渡さなくちゃ!
丸井のクラスに向かう途中、柱の影に丸井の後ろ姿を見つけた。
あの髪の色は後ろ姿でもすぐにわかるのが便利だよね。
「まる・・・」
声をかけようとして私は動きを止めた。
丸井の向かいに女の子がいたからだ。
もし告白場面とかだったら声をかけるのはやめた方がいいと思ったから、二人から死角になる場所で待つことにした。
『お弁当』とか『明日も』とかいう単語が聞こえてきて、二人の様子に目を向けると、丸井が女の子からお弁当らしき包みを受け取っていた。
「サンキュー、助かるぜぃ」
何これ・・・なんで丸井が女の子からお弁当を受け取ってるの?
その後も楽しそうに会話する二人の姿を見ていたくなかった私は、急いで教室に戻った。
教室ではさくらと仁王がお弁当を食べずに待っていてくれた。
「お帰り、丸井もまだ来てないよ」
さくらに「うん」と頷いて仁王の目の前に立つ。
「どうしたんじゃ?怖い顔して」仁王の言葉はムシして持っていた鞄を開け、中から二つのお弁当を取り出し、自分のお弁当を机の上に置いて、それより大きい丸井用に作ったお弁当を仁王に突き出した。
「なんじゃ、くれるんか?」
無言で頷いて差し出された仁王の手にお弁当を乗せようとした瞬間「あ、丸井」と仁王が私の肩越しに丸井の姿を捉えた。
「ワリー、遅くなった。もしかして待っててくれた?」
背後から聞こえてくる丸井の声。
その手にはきっとさっき貰ったお弁当があるんだと思うと胸が締め付けられるような感覚がした。
「仁王にあげる。食べてね」
強引にお弁当を仁王に押しつけて椅子に座ると、丸井が「何?」と私と仁王の顔を見比べた。
「なんでもな・・・」
「に弁当貰った」
と私の言葉を遮る仁王。
「はぁ!?」
ペットボトルの蓋を開けようとしていた丸井の動きが止まった。
「に、弁当、貰った」
「それ、が作ったの?」
と丸井は仁王の前に置かれたお弁当を指差す。
「そう」と答えてお弁当を食べ始めると、丸井はガタンと椅子を鳴らして立ち上がり「なんで仁王になんだよ!」と仁王の前からお弁当を取り上げ、さっき貰ったお弁当の包みを仁王の前に置いた。
「仁王はそれ食えよな」
「丸井への差し入れなんていらん。俺は自分で買ってきたパン食うからいい」
「いーから食っとけ」
「丸井さいてー」
二人でお弁当を押しつけ合う様子に、思わず口を開いた。
「そのお弁当、さっき女の子から貰ったやつじゃん」
「・・・、見てたのかよ」
お弁当の包みを解いていた丸井の手が止まった。
「・・・たまたま通りかかったの」
「ふーん。でも俺はの手作り弁当のが嬉しいし」
「だからってこれを俺に押しつけなさんな。俺は知らんヤツが作ったモンを食う気はなかよ」
と心底厭そうな顔をする仁王。
そういえば、丸井と違って仁王が差し入れやプレゼントを受け取ってるトコ見たことないな。
「あー、なんか誤解してるみてーだけど、その弁当持って来たの、隣の家に住んでる俺の幼馴染みだから。母ちゃんがいねーからっておばちゃんが俺の分も作ってくれたんだよ。だから安心して食っとけ、仁王」
「なんじゃ、そんなら食うぜ」
「お、うまそう」
とお弁当の蓋を開けた丸井。
「つーかさ、これって俺に作ってきてくれたんだよな?なんで仁王に渡してんだよ」
かなり不機嫌そうな顔で私を見る丸井。
「・・・だって丸井はお弁当貰ったみたいだから二つもいらないと思って」
「ねぇ・・・」
今まで黙って私たちのやりとりを見ていたさくらが突然口を開いた。
「もしかして、こっそり丸井にお弁当渡しに行こうとした?」
さくらの質問に、お弁当を食べ始めていた丸井と仁王が同時に私に顔を向けた。
「そこで丸井が他の女の子からお弁当受け取ってるの見て嫉妬やいちゃったりしたんじゃないの?だから丸井に作ってきたお弁当仁王にあげようとしたんじゃん?」
最後にニヤリと笑って、再びお弁当を食べ始めるさくら。
なんて余計なこと言ってくれるのよ、さくら!!
「なんじゃ、俺はダシにされただけなんか。手作り弁当渡された時はちょっと嬉しかったのにのう」
さくらと同じようにニヤリと笑う仁王。
「なんだよ、嫉妬ってどういうことだよ」
さくらの言葉を聞いて、真っすぐな瞳で私に問い掛ける丸井。
何?私にそれを言わせようって言うの??
丸井が私以外の子からモノを貰うことにムカついたなんて口が裂けても言えない。
黙秘することを決めた私は、誰とも目を合わせないようにしてお弁当を食べることにした。
「まぁいーや、が俺のために弁当作ってきてくれたわけだし。焼肉は俺が奢ってやるよ」
「ブンちゃん気前いー」と茶化す仁王に「の分だけに決まってんだろぃ」とすかさず突っ込む丸井。
「その代わり、明日も俺の弁当作って」
最初からそのつもりだった私は、素直に「うん」と頷いた。
視界の隅の方でさくらが口元を緩めていたのは、気付かなかったことにしよう。
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