五月晴れとでも言うのだろうか、5月も終わりに差し掛かったとても天気の良かったある日、今まで話したこともなかった丸井ブン太に突然告白(?)された。 丸井に対して恋愛感情は全くなかったんだけど、彼の強い押しに負けて試しに1ヶ月付き合うことになった。 それなりに楽しく過ごしてはいるんだけどね。





の自覚編





お昼休み、私の席でお弁当を広げるのが丸井と付き合うようになってからの恒例だ。

「あれ?丸井、今日はお弁当じゃないの?」

さくらの言葉に丸井へと視線を向けると、丸井の手元にはいつものお弁当箱ではなくコンビニの袋があった。

「おー、親戚に不幸ができたとかで親が弟たち連れて北海道行ってるから2、3日コンビニ生活なんだよ」
「へー、大変だね。ご飯作りに行ってあげたら?」

とにっこり笑うさくら。
また勝手なこと言う・・・

「手作りご飯とは羨ましいの、丸井」

私に意地悪な視線を送りながら、ニコニコ笑って仁王はペットボトルのお茶をごくりと飲んだ。

「仁王、それ私の!しかも飲みかけ!!」

何勝手に飲んでんの!?

「あー、悪い」

とペットボトルを私に返そうとする仁王に「や、それ仁王にあげる」と言って、私は仁王が差し出すペットボトルを左手で制した。

「なんじゃ、折角間接キスじゃと思うたのに」
「だからいらない」
「そんじゃ俺のコーヒー牛乳やる」

とコンビニ袋を漁る仁王。

「ちょっと待った!これは俺が飲む、はこれ飲んどけぃ」

袋から紙パックのコーヒー牛乳を取出し手渡そうとする仁王の手を止め、丸井は仁王から彼が間違えて飲んでしまった私のお茶を取り上げて、自分の前に置いてあるまだ手のつけられていないアップルジュースを私の手に持たせた。

「ブンちゃんは俺と間接チューがしたかったん?」

手にしたコーヒー牛乳にストローを刺しながら仁王がニヤリと笑うと「気色悪いこと言うな!」と丸井は仁王から取り上げたペットボトルに口をつけ、ごくんごくんと喉を鳴らしながら2、3口お茶を飲み、キッと仁王を睨み付けた。

「なんで仁王がと間接キスしてんだよ!俺だってまだしてねーのに!」
「なんじゃ、俺じゃなくてとしたかったんか?」

もーやめて欲しいな、お昼中にキスとかの話題・・・

「あーもー、マジムカつく仁王!!」
「スマン、スマン」
「全然悪いと思ってねーだろ。もういい」

そう言って丸井は突然立ち上がり、私に顔を近付けてきた。

、チューしようぜ、間接じゃなくて直接。今すぐここで!」

?!何考えてんの?!

「ムリー!絶対ムリだから!!」

反射的に丸井の口を押さえて激しく首を左右に振ると、丸井はチッと舌打ちして渋々椅子に戻った。

「教室でイチャつかないでよね、しかもお昼中に!胸焼けするっての」

さくらが丸井を白い目で見ながら、お弁当の中のブロッコリーにフォークを刺した。

「いつどこで何しようと俺の勝手だろぃ。俺はいちゃつきたい時にいちゃつくんだよ。イヤなら一条が他で食え」

フンと鼻を鳴らし再びお茶を飲んでから「仁王と間接キスなんて気分悪りー」と暴言を吐いて丸井はお弁当を食べ始めた。



*


いつもより少しだけ早めに登校し、周りに人がいないことを確認してから丸井の下駄箱を覗くと、中には上履きではなく学校指定の革靴が並べられていた。 なんで?部活は?と思ったが、丸井がもう校舎内にいるのならここに居ても仕方がない、とりあえず自分の下駄箱で靴を履き替えて、私は持っていた紙袋に視線を落とした。 自分のを作るついでだからと、なんとなく作って来た丸井の分のお弁当。 さくらと仁王の前で丸井にお弁当を渡すのは絶対にイヤだから、朝のうちに渡しちゃおうと朝練が終わる時間を見計らって下駄箱で待ってようと思っていたんだけど、タイミングの悪いことに今日は朝練が早く終わったらしく、丸井は既に教室に行った後だった。 仕方なく丸井の教室に行ってみたが、鞄はあるものの本人の姿は見当たらなかった。 お昼休みまでに渡せばいいかと自分の教室に行くと、なぜか私の席に丸井がいて、仁王と二人で楽しそうに話をしていた。
・・・なんでこの教室にいるのよ・・・

「来た来た、おせーよ」

私の席で私を手招きする丸井と仁王に「おはよう」とあいさつをすると、丸井が椅子から立ち上がったから、とりあえず鞄を置いて椅子に座った。

「なんで丸井がここにいるの?」
「なんだよ、の顔見に来たんだろ」
「ふーん」

教室に居てくれれば今日は私から会いに行ったのに・・・

、今日の放課後なんか予定ある?」
「ないよ。テニス部見に行こうと思ってたけど」
「昨日も言ったけど、家に今親がいねーんだよ。だから部活終わったら焼肉行こうって話んなったんだけども行こうぜぃ」
「え、仁王と三人で?」
「赤也とジャッカルもいるけどな」
「女一人で気まずいなら一条も誘ったらよか」

帰ってもどうせ一人だし、たまには焼肉もいいよね。
「うん」と頷くと「じゃー決まりな」と言って丸井は教室に戻って行った。 丸井の後姿を見送りながら、今お弁当を渡しちゃえばいいんだと気付き急いで丸井の後を追って廊下へ出ようとすると、出入口でさくらと鉢合わせてしまった。

「おはよう。どうしたの?」
「おはよう。なんでもない。そーださくら、今日焼肉行こうよ」

とりあえず席に着いて、丸井と仁王に誘われたことをさくらに話した。

「なかなか楽しそうなメンバーだし凄く行きたいけど、今日はお母さんの誕生日なんだよね」

「それじゃ仕方ないね」と呟くと、さくらは「は行ってきなよ、丸井と約束したんじゃん」と言った。
女は私一人でも、丸井と仁王もいるから平気だよね。


next