夕日を見つめるあなたの背中が愛しくて……
愛しくて……
思わず、そっと寄り掛かった。
あなたと同じ空が見たくて。
でも、恥ずかしいから背中合わせで。
僕らはいつも背中合わせ
中学最後の一大イベント・卒業式は、
意外にもあっけなく終わってしまい、
皆が帰路に着く頃になってもまだ、
私は物足りなさを感じて、真っ直ぐ家に帰りたくはなかった。
だから屋上で、一人フェンスに寄り掛かっていた。
三年間の思い出の場所を、しっかりと脳裏に焼き付けるために。
どれくらいその景色を見ていたのだろうか。
いつの間にか、目の前の風景を眺めるというより
心に次々と浮かんでは消えていく数々の懐かしい出来事を思い出していた。
そんな時、ふと背中に感じた重みに、ここが学校の屋上であることを思い出す。
こんなことをしてくる相手は一人しかいない。
今までは私の方が、君の背中に寄り掛かってばかりだったのに。
「重いんだけど………リョーマ君」
「…………」
「まあ、別に良いけどさ」
学校で何かある度、屋上に来ていた私。
でも、来る度にいつも先客がいて。
一人になりたくて来たんだから、始めはいつも離れた場所にいた。
でも、何度も何度も見かけるうちに気になって・・・・・・
思い切って声を掛けてみたんだ。
こうやって、同じ時間を、空間を、今まで数多く共有してきた私たち。
背中越しに伝わる体温は無償に温かく、
焼き付けるはずの風景がさらに歪んだ。
「先輩、何か俺に言うことないの?」
リョーマ君が言葉を口にすると、背中から彼の呼吸が伝わってきた。
こういうのは、とうに慣れきっているはずなのに…
何故だか分からないけれど、今日はいつもよりドキドキしている気がする。
「リョーマ君こそ、言いたいことがあったから、ここに来たんでしょ」
「卒業おめでと」
「何それ…………ずるい」
そんな月並みな言葉で濁して。
本当の気持ちすら口にしないなんて。
でも本当は、ずっと前から気付いてた。
いつも背中越しに伝わってきていたのは、
体温と呼吸だけではなかったから。
あなたの心臓の動きが少し早いということ、
私にドキドキしているということ、
ずっと前から知ってたよ。
私が気付いているってことは、
あなたもとっくに私の気持ちには気付いているだろうけどね。
これからもあなたの背中を貸してほしいから、
ずっと一緒にいられる魔法の言葉を贈ります。
「大好きだよ、リョーマ」
Fin.
卒業式シーズンだったので、卒業物にしてみました。
背中合わせの2人、というのがテーマだったので、
背中越しにいつも同じ空を見ていた、という話にしてみました。
素敵企画「brihigh」様への参加作品。
2007,3,15 presented this story to "brihigh" from えびび丸