好きだと思っていただけで、本当は全然好きじゃなかった。 好きになりたかっただけで、結局は好きになれんかった。 ただ、それだけ。 恋愛詐欺師の恋愛探し 部活が終わった時だった。 「まーた彼女募集中に戻りましたか!」 ケラケラケラと、マネージャーのがカゴを抱えたまま大笑いしていた。 「まーたフラれちゃったらしいじゃん、ホント、何やらかしちまったんだかな!」 の横でブン太が同じように、ケラケラ笑っている。 「フラれたけど、フラれたわけじゃなかもん。お前らうるせんじゃ」 疲れた顔して2人を横目で見てやった。 相変わらずのケラケラ笑いに、ちょっと本気で腹立った。 『仁王君は、私のことが好きじゃないんだ』 大抵の女が言う、別れ際の言葉。 大抵の場合、俺はその言葉に何も返せずに、そのままお別れ。 だって、そうじゃろ。告白してきた時に、付き合ってみないと分からないからとりあえず付き合えと、そう言ってきたんはドコのどいつじゃ。 でも噂は勝手に広まって、ついたあだ名が「恋愛詐欺師」 ペテンはコート上だけで、十分じゃろうに。 「あーあ、コレでまた明日から仁王は女に引っ張りだこになっちゃうね」 着替え終えて部室から出ると、扉の横でが壁にもたれて座っていた。 「…まだ帰ってなかったん?」 「仁王と一緒に帰ろうと思って。彼女いないし、たまにはいーでしょーが」 そう言っては立ち上がって、スカートをぱんぱんとはらった。 「別にエェけど、まだフラれたことちゃーちゃー言うようじゃったら置いて帰るけんね」 そう言うとは笑って、「じゃー掴まって帰らないと」と言った。 冗談だけにしといてくれよ。 下駄箱で靴を履き替えて、並んで一緒に歩いた。 は校舎から出たとたんに、寒い寒いと騒ぎ立ててマフラーをカバンから取り出して身につけていた。 「仁王さあー」 「ん?」 「ちゃんと好きになってから、人と付き合った方がいいよー?」 「・・・うん」 声に出したか出してないか、分からないくらいの声で返事をした。そしたらが顔を覗き込んで、笑った。 「仁王は詐欺師だなんだとか言われてるけど、その辺の感情は未発達だしさー、人のは鋭いくせに自分が関わってくるとなんか鈍感だよねー」 うんうんと頷きながら勝手に話を続ける。言ってくれるのう。 「は?」 「はい?」 「は、ちゃんと人を好きになったことあるん?」 ちょっと斜め下にあるの頭を見下ろしながら言う。 冷たい風が、ヒュッと吹いた。 「だから、言ってんじゃん」 は口を尖らせて言った。 「なにを」 「…にぶちん」 「何ちんって?」 「アホ!寒い!!」 また風が吹いて、の中途半端に巻かれたマフラーが解けて風になびいた。 「少しは考えてみなよ、私、こんな寒いのに普通人待ったりしないから」 マフラーなんか気にしない感じで、は真っ直ぐに俺を見て言った。 「俺のこと、好きなん?」 俺も目を逸らさずにそう言うと、 「…おまっ、結論出るの速いわ!!」 そう言ってはマフラーを巻き直しながら先に前へと全力疾走して、途中で止まって振り返った。 「それが当たりかはずれか教えないけど、考えてみてよ、ちゃんと!」 俺は意味が分からなくて首をかしげたら、は「あーもう!」と怒った声で言った。 「この鈍感男!ちゃんと人のこと好きになってみせろ!ばーか!!」 そう言って、はハア、と息を吐いた素振りを見せて、グイッと手の甲で目を拭いた。 ちょっと遠くて表情は分からないけど、多分涙を拭いたんだと思われる。 俺は、ちょっと間をあけて、のもとへ走って、そのままを抱きしめた。 「だから、こういうのを簡単に、するな!」 「ちょっと、聞いて」 が俺のみぞおちにグーでパンチしてきたけど、気にせずに抱きしめた、さっきより強く。 「のことは、ずっと好きじゃったよ。恋愛かはわからんけど、でも、ブン太と仲良くしとんのとかちょっとムカついたりするんじゃけど」 「・・・・・・ブン太は友達だもん」 が力を抜いた感じで、ダラリと腕を落とした。 「俺は?」 「・・・言うもんか」 が、俺のシャツを引っ張って、顔をうずめた。 「この気持ちが、ハッキリしたら、また言うわ・・・、で、エェ?」 そう聞くと、が1回、こくりと頷いて 「本気で、考えろよ」 と言った。 強がってるその態度も、なんか可愛く思えた。 は、小さく震えていた。 --------------------------------------------------------------------------------- 恋愛詐欺師なんて、もう誰にも言わさんよ。ちゃんと、答え見つけるけんね。 (2007.03.12) |
written by astro / 岡山健太郎 |