『もっと 素直になって
あなたのこと 「好き」だと言えたらいいのに
何故 言葉にできないの?
いつか 瞳合わせ
あなたのこと 「好き」だと言えますように
I wish あなたとふたり Always love you. 』
あたしは、ルララと唄うよ。
この、いつもの唄をキミに。
キミに伝えたいけど伝えられない想いを、このメロディーに乗せて。
歌 姫 が 紡 ぐ 恋 の 歌
ある日の放課後の教室、キミは前の席の椅子に腰掛け、前後に揺れた。
あたしはイヤホンから流れるメロディーを繰り返し聴いて、机の上のノートにペンを走らせた。
「なぁ〜、?? お前、いつライブやってんだよ〜。俺、見に行きてぇんだけど。」
「いや、ブンちゃんには内緒でございますわよ、ウフフフ。」
「はァ、何でぃ!? 何で俺には内緒なわけ〜?!
っつぅか、『ございますわよ』って語尾変だろぃ!」
「だ、だって・・・。」
普段、キミにいつも言えない言葉を唄っているから。
・・・なんて、言えるわけない、よね??
キミに「好き」と伝えられて、あたしも長い片思い生活にピリオドを打った1ヶ月前。
晴れて付き合うことになったのはいいけど・・・。
ラブラブってゆうの?イチャイチャってゆうの?
そうゆぅの、あたし達の間には、無い。
というのも、あたしだってキミのこと、とっても好きなんだけどさ。
幼馴染みたいなものだから、素直になれなくて。
だから、キミに「好き」と言ったのは告白されて返事したときの1度だけ。
もしかしたら、キミは不安になっているのかもしれないよね。
・・・それは、わかってるんだけど、言えない。
「ん〜じゃあ、ちょっとだけでいいから、今書いてるソレ、見せてくれてもよくね?」
「っ!! いやっ、それだけはダメ、絶対無理!!」
キミが、あたしの机の上の歌詞を綴ったノートを覗こうと身を屈めた。
あたしは慌てて、うつ伏せてノートを体いっぱいで隠した。
キミに伝えられない、その代わり?というか・・・。
あたしがキミを想う気持ちは、あたしの好きな唄に込めて唄っている。
キミはテニスに打ち込む日々だけど、あたしは軽音部でバンドを組む音楽の日々。
ギター掻き鳴らして、全開でシャウトすれば、すごく気持ちがいいの。
地元じゃ、そこそこ有名なんだけど・・・やっぱりキミには内緒。
言えない言葉を綴っているのに、どうしてそれをキミに伝えられる?
でも、キミはやっぱり知りたいんだよね。
キミとの攻防の末は、最悪な展開、キミを怒らせてしまったみたい。
「ああ、もぅいいやぃっ!!
ってば、全然っ教えてくれないし、もう、俺、知らないから。」
「え、ちょっ・・・ブンちゃ」
「俺、先帰るから、じゃあなっ!!」
バンっと机を叩いて、テニスバックを背負って消えてしまったキミ。
ぽつんと教室に残されたあたし。
・・・・・まずい。極めてまずい状況。
何もそう怒らなくても・・・とも思うんだけど、
でも自分が同じことされたら嫌だし・・・ちょっと悪いことしたのかもしれない。
でも、そんな・・・歌詞見せて言われても・・・・・。
誰宛の唄だと思ってんのよ、とてもじゃないけど無理よ、見せられる訳がない。
「バカだね、あんた。」
「やっぱり、そう思う・・・??」
「当たり前でしょ〜?! 丸井が可哀相だ。」
「で、でもさぁ・・・。」
すっきりしない思いで、バンド練習に参加するとすこぶる調子が悪い。
セッションは中止。
明らからに原因である「あたし」をバンド仲間であり親友の彼女は名指しし、とことん吐かされた。
ハッキリした物言いをする彼女、滅多打ちにされるというか、いっそ清々しいまでの毒。
「だって、丸井のテニスの試合とか気にならない?」
「・・・な、なる。」
「何で、気になるのよ?」
「テニスしてるブンちゃん、カッコイイし・・・好きだし・・・。」
「・・・でしょ?!それと一緒よ。
丸井だって、の唄っている姿見たいってゆぅのも当然だろうし、
どんな唄を唄っているのかだって気になるでしょうが。」
「あ・・・・・そっか。」
そこには、素直じゃないとか恥ずかしいとか、そうゆう問題とかじゃなくて。
あたしは、誰宛の唄を綴っていたんだっけ、ね?
いつも唄うあの唄、キミの唄なのに・・・。
届けるべきヒトに届けない唄を唄うのじゃ、本当は意味が無いのかも。
「明日のライブ、丸井呼んであげたら?」
「・・・考えとく。」
とはいっても、急にその態度を改めるのは難しい。
素直じゃないから、尚更難しい。
結局、早めに練習を切り上げて明日へ備えた。
今日は携帯が鳴らない日になってしまった。
付き合ってから、キミと喧嘩したことは無かったな。
・・・・・何か不安、嫌な気持ち。
キミも、一緒なのかな?
不安なまま、眠りにつくのってこんなに嫌なんだ・・・。
なかなか寝付けないまま、夜は更け、翌日の朝を迎えた。
握り締めた携帯には、相変わらず何の音沙汰も無いまま。
いつものキミとの待ち合わせ場所に15分待っても姿は現れなかった。
・・・いつも遅れるときは、連絡くれるのに。
いよいよ危機感を感じて、教室まで走った。
何かもう無我夢中で、キミのところに走った。
教室の戸をガララと大きな音立てて、クラスメイトが振り向くのもお構いなし。
そっぽを向いたキミ、その机に、あたしはバンっと叩いた。
ビクっと驚くキミの肩、あたしは息を切らしながら、一言だけ告げた。
「今日、夕方6時からライブやるから、来てっっっ!!」
「・・・・・っえ、あ・・・お、おぅ。」
キミは唐突過ぎたこの状況にいくつものクエスチョンマークを浮かべながら、
机に置かれたライブチケットを目にし、小さく返事をした。
あたしはそれ以外、何も言わないで席に着いた。
その日の授業時間いっぱいをつかって、あのノートに新しい想いを綴った。
不思議なもので、すぐに書きたい言葉が浮かんだ。
今日ほど集中して唄を書いたのは初めてだった。
早めに会場入りして、仲間に書き綴ったノートを見せると、いつものセッションを繰り返す。
もぅ間もなくライブ開始だ、キミの姿は・・・。
「・・・あ、丸井が来てる。」
「ほ、本当っ!??」
楽屋のモニターに写ったキミ。
・・・隣のクラスの仁王くんと一緒に来てた。
きょろきょろそわそわしながら、始まるのを待っていた。
あたしは、ゴクンと唾を呑む。
今日は、特別なライブ。
覚悟は、いい??
眩しいステージで、ベースが唸ればドラムも弾ける。
ギターの旋律に、あたしは言の葉を浮かべていく。
遠くにいるキミに、あたしはどう写っているかな?
ねぇ、ちゃんと届いてる?
あたしの気持ち、精一杯の気持ち、キミに届いてる?
全身から汗が噴出す程の熱いステージも終盤。
最後のMC、震える手でマイクで握り締めた。
「今日は、ありがとっ。
次で、最後の唄だけど・・・・・。
今日は、あのいつもの唄を、ずっと伝えられなかったヒトに伝えようと思うの。
・・・ブンちゃん、聞いてください。」
スポットライトが、あたしとキミだけに当たる。
何十人もいるクラブなのに、ここにはあたしとキミだけしかいない空間みたい。
ああ、キミが驚いている。あたしは、にっこり笑った。
ドラムのカウントで、ギターが掻き鳴らされる。
力の限り腹の底から、キミへの想いをぶつけた。
『もっと 素直になって
あなたのこと 「好き」だと言えたらいいのに
何故 言葉にできないの?
いつか 瞳合わせ
あなたのこと 「好き」だと言えますように
I wish あなたとふたり Always love you. 』
いつもの唄に、プラスして今日だけの特別ヴァージョン。
授業時間をフルに活用した今夜限りの、今夜キミに伝えるための唄を。
『いつも どんなときも
あなたのこと 「好き」なの、「好き」だから どうか
不安な 闇夜を 消し去って』
ステージを飛び降りて、もう1つの明かりの方へキミのもとへ。
キミの目の前で、最後の言葉を、最大の愛を告げる。
『そして これからだって
あなたのこと ずっと「好き」のままだから
I will あなたとふたり Always love you.』
歓声に包まれたあたしとキミ。
あたしがキミに告げた言葉とともに、ぎゅっと抱きしめられた。
キミが耳元で囁いた言葉は、少しだけ震えてて「ありがとう」と言った。
「どういたしまして」なんて、また可愛いくない偉そうなこと言っちゃうのは
いつものあたしだからしょうがない、よね??
キミの腕の中、キミの顔を見上げると嬉しそうに笑ってた。
ああ、言葉を伝えるってこんなに幸せなんだね。
素直になれないなら、唄で伝えればいいじゃない?
好きな気持ちも、不安な気持ちも、ごめんねって言葉も、ありがとうって言葉も。
あたしが大好きな唄で、大好きなヒトに。
公衆の面前なんてお構い無しに、あたしは背伸びしてキミにキスをした。
初めてキミに素直になれたその幸せを込めたキス。
ベースがキュイーンと響いて、オーバーヒートの箱の中。
あたしは、ルララと唄うよ。
これからも、いつもの唄をキミに。
キミを愛する気持ちを伝えるために、このメロディーに乗せて。
END
07/04/05
thanks !! photo by Rin
***
好きなんだけど、言えない想い。
付き合ってるのに近くて遠かった。
でも、やっぱりキミが好きだから素直になろう。
いつもキミのこと好きなんだよ、安心してね。
・・・みたいなことが伝わっていただけたら幸いです。
主催の浅生様、素敵な企画をありがとうございました。
愛咲アリス@Sweets拝