いつからだろう。
ブン太は私より、うんと大人っぽくなった。
君を訪ねて徒歩数分
「おーす、ノート写させて」 部屋のドアが開いたかと思うと、すぐ聞こえた台詞がこれだ。 「ブ ン 太 ・・・何回言ったら分かるかな、ノックしてよね一応」 私はベッドに寝転がって雑誌を読んでいたのをやめて、とっさにちょんまげスタイルを解いた。 「なにを今更言ってんだか。別におまえが裸でいたとしても何にも感じねーもんね」 ケロッとムカつく発言をする。どうせ私は貧乳ですよ。 「ん、ノートって何の?」 「ん、ああ、数学の。今日思いっきり爆睡してた」 私は、へぇへぇと適当に相づちを打ちながら鞄の中をあさった。
ブン太は幼なじみだ。 徒歩1分かかるかかからないかのところに、ブン太の家はある。 でもさ、普通さ、もうこういう年齢になったら、幼なじみとかっつってもさ、男女意識するもんじゃないの?
少なくとも、私は、ブン太をもう同類と思っては見れない。
「はい、あったよ。大切に使ってよね、あと明後日、私数学あるから忘れないように」 「あー、良いよ、ここで写してくから」 「え?」 私が眉間にしわをよせて見ても、ブン太は飄々と、当たり前のように私の机に座ってノートを開いては 「うわ、オレのクラスより進んでるじゃん」とか嬉しそうに独り言を言っている。
「ブン太さあ」 「んー?」 「私、女だよ」 「あー?なに言ってんの?」 「そしてアンタは男だよ」 「ははっ。そりゃそーだけど、なに?」 あ、痛い。 今、すごい、心臓が痛かった。 心臓っていうか、あれか、心か。 私って、女扱いされてないんだ、ブン太に。 「それ、写し終えたら、帰ってね。私はもう寝る」 涙出そうだ。 これは紛れも無い不貞寝だ、くだらない自分がムカつく。
私は布団をかぶって、涙をぐっと堪えた。 泣いたら震える。 こんなんで泣いたら、いくらなんでも恥ずかしい。
「なに、怒ってんの」 ブン太がベッドに座って、布団からちょっとだけ出てる私の頭を撫でた。 「・・・早くノート写しちゃえよ」 「オレ別にのこと、女扱いしてないわけじゃねーよ」 全部見透かされたような台詞に、私はドキッとした。 「あんまり意識しすぎて、こうやって部屋にこれなくなんのが嫌だっただけ。だって、最近全然オレの部屋来ねーじゃん」 「当たり前だよ、行けないよ」 「なんで?」 「・・・なんとなく、不謹慎だから」 そう言うとブン太が吹き出して笑った。 「・・・なにさ」 「いや、ちょっと面白かっただけ」 布団からちょっとだけ顔を出すと、ブン太は笑った。 「じゃあさ、真面目にこういうことすんのは良いの?」 ブン太はそう言うと、私が目元までかぶっていた布団をちょっとだけはぐった。 「・・・な、なに?」 私は心臓がずんどこずんどこ言って、目が泳いで。 ゆっくり近づいてくるブン太の顔が真顔で、とにかく、心臓の音が、大きくて。
ぎゅっと目をつぶった。
チュッと、音を立てて、ブン太は軽く、私のおでこにキスをした。 「あっはは、、ブッサイクな顔!」 私がぱちりと目を開けると、まだ目の前にあるブン太の顔は思いっきり笑顔だった。 私は呆然として、その顔を見上げていた。 心臓の音は、意外にもさっきより大きくなっていた。 「目とかつぶっちゃってさ、口にすると思った?」 ブン太がニコニコ顔で言うもんだから、思わずブン太の頭をペンとたたいた。 でも、ブン太は笑っていた。 「まあ、の反応で口にしても良いって分かっただけでもオレにとって今日の収穫かな」 そう言うとブン太は、よいしょとベッドから降りて、机の上のノートを取って部屋のドアまで行くと振り返って、 「じゃあ、明日ノート返して欲しかったらオレの部屋こいよ」 と笑って言った。 私は顔を真っ赤にしたまま取り残されて、状況整理が出来ないままだ。
とりあえず、明日、行けば全部はっきりするのだろうか。
君を訪ねて徒歩数分 --------------------------------------------------------------------------------- |