甲斐くんが風邪で休んだ。
「え、ちょっと平古場くんソレ本当?」
「おう、マジ。」
あの、甲斐くんが風邪をひくなんてめずらしい、今日は雪でも降るんじゃないか・・・
昇降口で会ったかと思えば、クラスが違うのにのこのこと教室まで着いて来た平古場くんは私の机の前でなにやら偉そうに命令してきた。
「と、言うことで。、お前、見舞いに行け」
「は?なんで」
まだ、いいとも言ってないのに目の前にある、フルーツの詰め合わせを私に押し付けようとする
(あ、このマンゴーおいしそう・・・)
「そんなの平古場くんが行けばいいのに、甲斐くんと仲良いじゃない」
「・・・やーも裕次郎に負けず劣らず鈍い奴さー、まぁ、いいから帰りにちょっと寄るだけだろ?」
そこまで頼むって言われたらしょうがない、行くか
「いいよ、そこまで言うなら行くから」
「そっか、よろしくたのむど」
最期のやけにニヤニヤした平古場くんの笑みが気になったけど、まぁいい、パパッと行ってパパッと済ませちゃおう。
確かに、甲斐くんに会いに行く口実が出来たのは嬉しいけど、私なんかがいきなり行って「なんでお前が来たんだ?」なんて言われたらどうしよう。
かなりショック、落ち込む。でも、仮にもクラスメイトなんだから・・そんな対応はしないはず、それに具合が悪いんだから寝てるよね?、そうそう本人が出るわけ無いじゃない、親御さんにプリントとこのフルーツを渡して帰るだけよ、なに緊張してるんだか私。
ピンポーン
「こんにちはー」
放課後に寄った甲斐くんの家は異様に静かだった
(あれ?留守かな、病院でも行ったとか)
いないのなら仕方ない、郵便受けにプリント入れて帰るか
甲斐くんが出てくることをほんの少しだけ期待してた私はちょっと残念だったけど・・・
「よし、じゃ帰ろうかな・・「さん!」
「えっ?」
上から声が聞こえた、あ!甲斐くんだ。二階の窓から顔出して・・あーぁ顔真っ赤じゃん、そんなに具合悪いなら黙って寝てればいいのに。
「今、玄関開けるから帰るなー!」
「そんな大声で言わなくても聞こえてるよ、甲斐くん」
風邪ひきが何やってるんだ、もう・・・悪化してもしらないぞ私は。
ガラガラガラ!
玄関が勢いよく開いたかと思えば、なんだかやけに嬉しそうな甲斐くんがいた。
「家に俺一人で退屈してたとこさー、ま、あがれよ」
「う、うん」
そんなに笑顔で言われたら断れるわけがない
彼に通されて家の中に入ると外とは比べ物にならないくらい涼しくて心地よい空気が流れていた
「あ、そだ。はいコレ、プリントと平古場くんからフルーツ」
「あー、ありがと・・」
「って、わっ!甲斐くん!?」
いきなり甲斐くんの体がグラついて私がそれを支える
「うー、まだ熱がひかなくて「だったら寝てれば良かったじゃん!無理に出てくることなかったのに」
いつもは元気すぎるくらいの甲斐くんのこんなに弱った姿を見たのは初めてだ。
「だって、さんが見舞いに来るとは思ってなかったからさー」
「・・・ひ、平古場くんに頼まれて来たの・・こんなにひどいとは思わなかったけど」
とりあえず、甲斐くんを部屋のベットに寝かす
男の子の部屋に入るなんて人生初めての経験だ、彼の部屋は意外と片付いていて綺麗だ。彼がいつもつけてる香水の香りもする。
「悪いな」
「いいから、気にしないで。あ、そだ」
来る途中で冷却シート買って置いたんだ、暑いときにおでこに張ろうと思って。
「これ、甲斐くんにあげる」
「は?って!なにするんばっ!」
彼の前髪を手で押さえておでこに冷却シートを張ってあげる
「どう?気持ちいい?」
「・・・・・・ん」
__________
珍しく風邪なんかひいて家で寝てたら、誰か来た
こんな時にかぎって家族は出払っていていない
とりあえず窓から誰が来たのかだけ確認しようとすると・・・
「さん!」
思わず、大声を出してしまった。
玄関にいた彼女が振り返る、俺・・熱のあまり幻でも見てるんじゃないのか?
急いで階段を駆け下りて、玄関を開ける。さんは本当にいた。
聞けば、凛に頼まれて来たらしい。(あとでなんか奢ってやろ)本当は自分から来てくれればもっと嬉しかったんだけど・・・
まだ、熱が高くてフラフラしてたら彼女に怒られた、ちゃんと寝てろって。怒ってる顔も案外可愛かった。
されるがままに部屋につれてかれベッドに寝かされて、やっぱり、こんなの夢じゃないかって思っていたところだった。
「いいから、気にしないで。あ、そだ」
「は?って!なにするんばっ!?」
「どう?気持ちいい?」
「・・・・・・ん」
おでこに冷却シートを張られた(と、突然何をするあんに、コイツは)
ドキドキしてしまった自分が恥ずかしい。
でも、こうされて嬉しいのも否定は出来ない
__________
部屋に甲斐くんと私の二人っきり、緊張しないわけがない。どうしよう、用もすんだしもう帰った方がいいかも・・・なんか本当に具合が悪そうだし。
「甲斐くん?」
「ん・・・」
「なんか、具合まだ良くなさそうだし、私はこれで帰るね」
帰ったら平古場くんにお礼でも言おうかな、めずらしく甲斐くんとこんなに話せたんだし。
アイツもたまにはいいとこあ・・!「待って、もう少し居て欲しいさー」
突然腕をつかまれてびっくりした。甲斐くんの手は燃えるように熱かった、それは熱のせいだって分かってるけど。
「じゃ、じゃあ、もう少しだけ・・・」
「ん・・・そうして」
調子が狂う、いつもはあんなに笑ってふざけてばっかりなのに、ずるいよ甲斐くん。
さっきの必死な表情が忘れられない、やっぱり一人じゃ心細いからかな。だったら「やっぱりもっと大人数で来たほうが良かったかな」って聞いたら「さんが来てくれればいい」って言われて恥ずかしかった。
♪〜♪〜
(あ、電話・・平古場くんからだ)
「誰?」
「え、平古場くんだよ」
「・・・なんで凛がさんの番号知っとるんば?」
なりゆきでね、と答えると甲斐くんはむすっとしたように壁の方を向いてしまった。でも「後で俺にも教えろ」って言われた
知りたかったのかな?私の番号
♪〜♪〜
(あ、出なきゃ・・・)
「甲斐くん、私ちょっと外に出てもいい?」
そう聞くとむくれた表情のまま振り返って「俺がいたら話せないんば?」と言った。
「そ、そういうわけじゃないよ」
甲斐くんの顔が恐い、急に機嫌が悪くなっちゃった、どうしよう・・・。
通話ボタンを押すと平古場くんの、のんきな声が聞こえた。
『おー、うまくやっとる?』
「う・うん、まぁ」
『そろそろ、帰ってくるさー、風邪移ったら元も子もないからな』
「そうだね、そろそろ・・『あ、ちょっと待って』
「?、何かあった?」
__________
ここからじゃ、電話で凛と何を話しているのかは聞こえない
さん、何気に凛と仲いいんだな・・しかも携帯の番号まで・・・
「・・・・・・・・・」
「え!そっそんな無理だよ!平古場くん」
(あーあ、なんか楽しそうさー二人して、やっぱり凛の奢りはなしにするか。)
ようやく終ったみたいで携帯をパタンと閉じて、こっちを向くさん。
「あ、あのー、私そろそろ帰るね甲斐くん」
風邪悪化させちゃ悪いからって、別にそんなもん気にしないのに。ここに居ればいいのにさー
「そうかー、気をつけて帰るんばーよ」
「う、うん」
鞄も持って、帰る準備は出来てるのになかなか帰ろうとしないさん、どうしたんば?凛になんか言われたんか・・・すると彼女は申し訳なさそうに俺に謝って
「あの、ごめんね・・ゆ、裕次郎」
何がごめんな・・
「な、名前!」
頬に感じた温もり、離れていく唇をただ呆然と見ていた。
「じゃ、じゃあ!早く熱治してね!」
恥ずかしそうにでも、どこか嬉しそうだったさんの表情がしばらく頭からはなれなかった。
明日も熱は下がりそうにない。
熱の高さをキスで測る
『帰る前に裕次郎にして欲しいことがあるさー』
『なにすればいいの?』
『簡単よー、名前で呼んでキスするだけあんに』
『え!そっそんな無理だよ!平古場くん』
『ひーじーひーじー、裕次郎の奴、絶対喜ぶばーよ』
『なんで、私なんかでいいの?』
『あー、そうよ。ま、いいから後は頑張れよー』
『ちょ、ちょっと待って、平古場くん!』
ブチ。
(裕次郎、もしかしたら逆に熱が下がらんかもな)
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初の比嘉ドリ。方言があってるかは不明、楽しんでいただければ光栄!