涙が流れる音は、どんな風に形容したらいいんだろうか。
「が泣かなくてもいいんだよ?」
誰も居なくなったコートを見続ける私に、剣太郎は顔を覗き込むこともせずにただただ背中を撫でてくれた。
全国大会には行ける。
それはまだ今年の夏が終わっていないことだけど、でも、今日皆は負けた。
負けた、んだ。
「まだ全国があんだろ?」
「そうだよ、まだ借りは返せるんだから。」
バネとサエがそれぞれ私の左右の肩に手を置いて、私の見つめる方向に視線を向ける。
皆は泣いたりはしていない。
それよりも、全国大会で一矢報いるために今から戦闘態勢に入っている。
瞳に宿るのは、悲しみではなく勝利に対する情熱。
試合に出ていない自分が涙を流しているのが、何だか馬鹿みたいに思えてくる。
だけど涙が止まる気配は、まだ無い。
「俺は試合してないから汗ついてないと思うし、我慢しなよ。」
亮が、ほとんど脱いだことのない帽子を脱いで顔を隠すように私にかぶせる。
宣言したとおり汗臭くはないが、今まで亮が身につけていた熱が髪を通じてじんわりと伝わってくる。
慣れないことをしてくる皆に、涙がまた出てくる。
涙と一緒に垂れてきた鼻をすする。
鼻がむずむずしてきたけど、ティッシュを忘れた私は指で鼻の下を擦って誤魔化した。
「は泣きすぎなのね。」
いっちゃんがポケットティッシュを私の手に握らせてくれた。
まだ使われていないソレは、きっといっちゃんのお母さんが今日持たせてくれたんだろう。
青い袋は、いつも見ていた千葉の海を思い出させる。
「あ、・・・がと。」
泣いてひゃっくりが出るなんてまるで小さい子供だ。
分っているのに、涙と嗚咽は止まらない。
喉が時々引き攣るように鳴る。
「まだ一緒にテニス出来る。」
ダビデが、落ち着いてる大きな声で言いきる。
そして亮に被せてもらった帽子の上から、私の頭に額をぶつけてくる。
力の籠められていないそれは、私に元気をだせというダビデなりの不器用な励まし。
「勝と、ぅね。」
次こそは、今度こそ。
「あぁ。」
「当たり前だろ。」
「負けないのね。」
「俺が負けると思ってるの?」
「価値のある勝ち…。」
言葉は違っても、含まれている意味は同じ。
「勝って、もみんなも一緒に笑おうね!」
剣太郎が昔から変わらない幼い笑顔で青い空を背負って断言した。
、六角中三年。
幼馴染たくさん、好きな運動はテニス。
私は今、大声で叫びたいくらい幸せです。
不器用に頭を撫ぜる (たくさんの手はとても暖かくて。)